非効率こそ最高のおもてなし。世界一、人間くさい宿を目指して

お知らせ

■ AIの時代に、あえて掲げた「人間くさい宿」

先日、エイプリルドリームという企画で、当館のビジョンを発信させていただきました。

掲げた言葉は、「非効率こそ最高のおもてなし。世界一、人間くさい宿を目指して。」というものです。

多くの企業が参加される中の一つなので、それ自体はささやかな出来事でしたが、私たちらしい言葉を発信できたのかな、と思っています。

時代はどんどん便利になり、AIやロボットが正確にそして効率的に作業をこなす時代が来ています。 もちろん、新しい技術によって助けられる部分は沢山ありますし、私も毎日利用しています。

しかし、旅館という業種において、どうしてもAIには置き換えられないものがあると感じています。

それは、人が紡いできた歴史と、お客様を想う心です。

■ 女将から布団敷きを10年教わって学んだこと

女将から客室の布団敷きを教わって、今年で10年になります。

シーツにシワを作らないこと。
角をしっかり立てること。
お客様が部屋を歩く動線を確保し、
枕は折り込みが裏になるように置くこと。

先日、スタッフが遅番だったため一人で客室の布団を敷きながら、ふと、これまで繰り返してきたこの手順の意味を考えていました。

シワを伸ばしたり枕の向きを揃えたりするのは、快適に眠っていただくための実用的な理由です。
一方で、シワを一つも残さない・シーツの角をきっちり立てること。これは機能としては必ずしも必須ではありません。(シーツの角が丸くても眠ることはできます。)

それでも私たちが徹底するのは、それがお客様に対する「誠意の表現」だからだと今は思っています。 私たちがお客様を歓迎し、大切に思う気持ち。
それをじっくりと「整えられた部屋」という形にする手段なのだと気付かされました。

最近、新入スタッフのためにマニュアル作りと指導を行っておりますが、先代から教わってきた手順にはすべて、お客様に繋がる根拠があることを実感しています。

■ 宿のあちこちに息づく「非効率な手仕事」

当館には、そうした一見すると「非効率な手仕事」が日常の風景として溶け込んでいます。

女将は、雨の日も風の日も、敷地内で花や枝を調達して床の間の生け花を仕立てます。花を摘むときも花を生ける時も、「この組み合わせでお客様に季節感をお届けしたい」「どんな風に生けたらお客様の心が癒えるだろうか」と常にお客様のことを考えながら準備をするそうです。

玄関の歓迎看板は、昨年の秋から私が筆で書かせてもらうようになりました。常連様のお名前を書きながら前回のお話を思い出したり、ご新規のお客様はどんな方だろうと想像したりして筆を運ぶ時間は、私にとってかけがえのない幸せな時間です。

厨房では、若旦那が「最高の料理は、最高の素材なくしては生まれない」という信念のもと、自ら船を出して富山湾の旬を見極めています。
せっかく生地へ足を運んでくださったお客様に最高の状態で味わっていただくため、仕込みの全工程に真心を込めています。

客室係や清掃スタッフも同じです。
客室の準備で浴衣やタオルをご用意する際、必ず「輪」の面をお客様に向けて置いてくれます。(「わ」を向けるのは、見た目の美しさだけでなく、ご縁が続くようにという「円満」の願いが込められた礼儀作法なのだそうです。)

清掃スタッフは、廊下のじゅうたんを掃除機でかけるとき、あえて綺麗に跡を残して模様のようにする「掃除機枯山水」を描くという密かなこだわりを持って取り組んでくれています。

■ 見えない「馳走」を大切にしたい

最近、「ご馳走様」という言葉の由来を調べる機会がありました。
「馳走」とは、客人を迎える準備のために、食材を調達したり準備に走り回ったりすることを意味するそうです。
AIは、完璧な部屋や美しい料理という結果をすぐに出力できるかもしれません。
しかし、お客様の顔を思い浮かべながら準備のために走り回るという過程を持つことはできません。

私たちが大切にしているのは、結果そのものと同じくらい、
「お客様を心待ちにして手間と時間をかけました」
という想いの痕跡を残すことです。

床の間や玄関に設える生け花、手書きの看板の文字、シーツの角、一皿の料理、掃除機の跡。

それらはすべて、歓迎の気持ちを目に見える形にしたものです。

創業から115年。最近は、図書館で昔の新聞や郷土史を紐解きながら、初代がどんな想いでこの暖簾を上げたのかを探る冒険を楽しんでいます。

時代が変わっても、人が人のために時間と手間をかける価値は変わらないと信じています。

華やかなおもてなしは私たちにはできないかもしれませんが、
これからも一つひとつの仕事に心を込め、世界で一番「人間くさい宿」であり続けたいと思います。

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